(二)楽園

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   従者が帰っていった後、まずザイダは、楽園に暮らす二人の少女を紹介してくれた。アロンゾとクキータだ。私は山の上の村から来たが、アロンゾは湖のほとりの村、クキータは砂漠の村から来たという。二人とも、褐色の肌と豊かな黒髪を持つ美しい少女だ。  ザイダによると、妃候補たちが暮らすこの屋敷には元々は名前がなかったらしい。が、最初にやってきた少女が「まるで楽園みたい」と感激したので、それ以来通称が「楽園」になったのだそうだ。  アロンゾとクキータと私はすぐに打ち解け、仲良くなった。心強い先輩が二人いるおかげで、私が新しい生活に慣れるのに時間はかからなかった。  楽園での生活は、その名の通り、快適の一言に尽きた。きれいな服、清潔な寝台、美味で栄養のある食事。広い屋敷にはアロンゾとクキータと私、それからザイダのほか数人の使用人が住んでいた。高い塀で囲まれた庭には大きな池があり、鮮やかな花が常に咲き続けている。特に雨の庭が私は好きで、無数の葉っぱが雨に打たれるとまるで音楽のように聞こえることを、楽園に来て私は初めて知った。私が生まれ育った村は土地が痩せていたから、植物がみっしりと生い茂る場所などどこにもなかったのだ。  村と違い王都は日中がひどく暑かったが、蒸し暑さをものともせず、私は暇さえあれば雨の降る庭を眺めた。「ライラは本当に雨が好きね」とアロンゾやクキータやザイダに苦笑されることも含めて、ここはまさしく私にとって楽園だった。唯一残念なことといえば、故郷の家族とのやり取りが一切禁止されていることだったが、王家の一族になる以上は仕方がないのだろうと私は割り切っていた。私たちは、故郷や家族を棄てて、納得ずくでここへ来たのだから。  普段の私たちは、日中はザイダに文字や勉強を教わったり、本を読み聞かせ合ったり、楽器を弾いたり、家事の手伝いをしたりして過ごした。屋敷の外には勝手に出てはいけない決まりになっていたが、月に二回ほどは、ザイダや使用人と市場へ買い物に連れていってもらえた。王都のざわめきを感じられるこのひと時が、私はとても好きだった。  屋敷の外に出るようになって初めて気づいたのだが、屋敷のはるか向こう側には、大きな石の山がそびえ立っていた。ピラミッドというのだと、ザイダが教えてくれた。この国を建てた二代前の王が、十年かけて築いたのだという。 「どうしてピラミッドを作ったの?」
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