憎き恋しき

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「今日も良い天気ね?」 カーテンを開け放ち、お母さんが言う。 窓からは白い光が注いで、斜め後ろにいる私にはお母さんのその表情がよく見えなかった。 「いい天気?」 「そう、こういう晴れた日のことをね、良い天気って言うのよ」 幼い私はまだ言葉を広く知らなかった。 「天気にいいもわるいも、あるのかな」 「あるのよ」 そう言ってお母さんは微笑んだ。けれどどこか寂しそうにも見えた。 「さ、朝ごはんを食べたら掃除洗濯!そのあとには…」 「そのあとには?」 「お話を聞かせてあげる」 「やった!わたしもいろいろお手伝いするね!」 私はお母さんの話を聞くのが大好きだった。 自分の知らないことを沢山教えてくれる、自分がまだ経験したことのないことも、まるで擬似体験させてくれるようだった。母は学生時代に読み聞かせのボランティアをしていたとのちに聞いたが、そういう経験もあって話し上手だったのかもしれない。 朝ごはんはパンとコーンスープ、そして少しのサラダ。 ほとんど毎日このメニューだ。 お母さんとお父さんはよく、野菜が食べられて幸せだと言っていた。 私はなんだか飽きる気もしたが、毎日同じご飯、それは覚えがある限り普通のことであったので取り立てて気にしてもなかった。幸せも、不幸せも感じることなく。 お皿をキッチンまで運ぶ、お母さんが洗う、私は拭くのを手伝う。 お掃除、お母さんは忙しく家中を動き回る、私は自分用の小さいちりとりと箒を持って見つけた小さなごみをちまちまと取る。 お洗濯、カゴから洗濯物を取り出してお母さんに手渡す、お母さんはそれを受け取って洗濯機に入れる。回す。その間にお湯を沸かして、お母さんにはコーヒー、私にはココアが用意される。 二人でリビングのソファに腰掛ける。 「ふぅ、一段落ついたわね」 コーヒーの入ったカップを片手にお母さんがそうひとりごちた。 私は早くお母さんの話が聞きたくてそわそわしていた。 そんな私の様子に気付いてか、お母さんが私を見て笑った。 「わかってるわよ、お話でしょ」 「うん!」 目を爛々とさせて頷いた。 「じゃあ今日は…雨の話をしようかな」
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