憎き恋しき

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小さい頃、雨が好きだった。 大人達は雨が降ると面倒そうな顔をする。 それでも、雨は楽しい。 私にはお気に入りのカエル柄の傘があった。 真っ赤な長靴もあった。花柄のカッパもあった。 それらを身につけることができる雨の日は特別な日だったのだ。 雨粒がいろいろなところにくっついて、キラキラして見えた。 植物が喜んでいるように見えた。 雨に濡れた緑色はいつもより濃くて、なんだかとても綺麗だ。 お母さんが手を引いてくれる。たまに、お母さんの大きい傘に一緒に入れてくれる。自分の傘が使えなくてもそれも嬉しい。 雨粒をつけて家に帰ると、お母さんがふかふかのタオルで拭いてくれる。 お母さんは心配そうな顔をするし、あまりにも濡れているとちょっと怒ったりもするけれど、それでも優しくタオルで包んでくれるその手つきが好きだった。 雨は楽しい、雨が降ると嬉しい。雨が好きだった。
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