憎き恋しき

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私も所謂お年頃というやつだ。 雨の日は憂鬱。折角整えた髪の毛も湿気でうねってしまうから。 好きな人ができて、その人の好みがサラサラな髪の毛なんて聞いたら気にしないわけにもいかなくて。 くしは欠かさずに制服のポケットに入れておくようにしていた。 余裕のある日には朝シャンだってしていた。 いい匂いと評判の最近発売したシャンプーも買ってもらった。 しかもこのシャンプーのCMに起用されている女優さんは、あの人が好きだと言っていた女優さんだった。 シャンプーを変えたくらいで、何も起こったりしないことはわかっているけれど、彼を好きなのだと自覚するような、噛み締めるような行動ひとつひとつが楽しかった。 若い頃の恋愛とはそういうものなのだろう。 ある日、午後から大ぶりの雨が降り出したことがあった。 朝家を出るときには快晴で、まさかこんなにも雨が降るだなんて思わなかった。 その日に限って朝の情報番組で天気予報のコーナーを見逃していたのだ。 朝シャンはしっかりとしたのに…。 昇降口でどうしたものかと外を眺めていた。 濡れて走って帰るのもありかもしれない、けれどそんな気力もない。 明日も学校があるのに、制服や、靴や、鞄を濡らすのも気が進まなかった。 これだから嫌なんだ雨はー…そう思ってしゃがみこんだときに後ろから声をかけられた。 「傘…忘れた?」 私が今、誰よりも恋しく思っている声だった。 「えっ」 驚いて振り返ると、好きな人がそこに立っていた。 「いや…帰ろうと思ったらそこで外見てしゃがみこんだからさ、忘れたのかと思って…」 「あっ、見てたの…」 「持ってるならいいんだ、一応声かけただけだから」 彼は下駄箱から自分の靴を出した。 「忘れた!」 黙ってたら帰ってしまうと思って、焦って大きな声を出してしまった。変な言い方になってしまったな、と少し顔が熱くなる。 彼は驚いたような顔をした後、笑った。 「元気だな!じゃあ、ベタだけど…嫌じゃなけりゃ入ってく?」 そう言って笑いながら傘を開いた彼の姿が本当に本当に素敵で、久しぶりに私は雨も悪くないなと思った。こんな奇跡が起こるなら、たまに降るくらい、いいかな。 しかもそのときの相合傘で、髪の毛からいい匂いがしてドキドキした、と後になって彼から言われた。しばらく同じシャンプーを愛用したことは言うまでもない。
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