<1>寝ぼけていたせい。絶対に、そうだって

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<1>寝ぼけていたせい。絶対に、そうだって

「参ったな。世界の秘密に触れた途端、これかよ」  そんな  この私が…  喉元にはナイフ。男に羽交い締めにされ、身動きが取れない。  この後、どうされるんだろう。  怖い。すごく怖い。まだ死にたくなんてないのに。  誰か、助けて  そんな言葉すら、口から漏れてこない。全身に恐怖が浸食してきて、体に力が入っていかない。真夜中。大声を出しても、無駄なのはわかってるけど。魔法さえ唱えられれば、こんな男など、一発で撃退できるのに。  それなのに… 「おいおい。おとなしくしろよ。危害を加えるつもりはないんだから」  男が、私を縄でグッと縛る。それに従順に従っている自分。あまりの情けなさに、泣きたくなる。  おかしい。絶対に、おかしい。  こんな簡単にやられるほど、私は弱くないのに。どうして、こんなことになってしまったのか。だって私は、ポポ村一の魔法使い。私に敵う人間など、この世にいるはずがないのに。  男は、私を縛り終えると、椅子にドカッと腰を落とした。全身黒い服で、肩にかかるくらいまで伸びたボサボサの黒髪。褐色の肌。左の頬にある大きな傷跡が目立つ。歳は三十過ぎだろうか。 「さて。これからどうするか」  何やら考え耽りだした男。  ドクドクと心臓をうつ音が、やけに大きく響く。男の言ったことを信じてもいいのだろうか。本当に、危害を加えるつもりがないのだろうか。  いや、いや  名も知らぬ侵入者の言うことなど、決して信じてはいけない。とはいえ、きつい縄の縛り。自力では、上体をぴくりとも動かすことができない。  二時間、三時間。いや。それ以上、経過しただろうか。外の暗がりが薄らいできて、男が椅子からゆっくりと立ち上がった。家にある食料を物色すると、幾らかを袋に詰め込む。そして、私の方を振り返った。 「悪かったな。お嬢ちゃん」  そんな言葉をポテンと残して、男は立ち去っていった。  そう  全ては、そこから始まったわけだ。  この世界の秘密を巡る冒険が…
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