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2.青い月から来た男
「う……うん……」
瞼がゆっくりと開き、光が差し込んできた。目が光に慣れると高い天井が見えて
いた。なんだやっぱりさっきのは夢だったのか……と認識したとき、今度は
右手になにか違和感を感じた。なにか温かい。右手側に目線を向けると自分の
手に別の手が重なっていた。その手は雪のように真っ白で、か細かった。
重なった手から目線をだんだんと上に配ると、真っ白い手の主は女性だった。
さっきの夢に出てきたおかっぱとは違う。腰まで伸ばした長い髪は一糸の乱れ
もなく、はっきりとした二重まぶたに薄っすらと桜色をした唇。雑誌やテレビ
でしか見たことがない美人だった。
手を握る美人は黒いワンピースに白いエプロンを着ている。これは所謂メイド
服というものだろうか。なぜずっと手を握っているかはわからなかったが、
ずっと側にいたように思えた。
「目覚めましたか。」
その美人は太陽のような笑顔を見せた。思わず僕の心臓は高鳴る。こんな風に
女性に笑顔を見せられたことは初めてだった。ましてや手を握られたことも。
急に恥ずかしくなって、握られた手をベットと背中の間にひっこめた。
「は……はい……すみません。……だ……大丈夫です。」
しどろもどろになってしまった。なにも言葉が浮かばなかった。そんな僕の心
を見透かすように女性は語り掛ける。
「ふふふ、お元気でなによりです。私の名前はソフィア。」
彼女はソフィアと名乗った。あのアニタとかいう態度のでかい女とは大違いだ。
「ぼ……僕の名は……」
「大門晶様ですね。」
ソフィアはにっこりと笑う。白い整った歯が見える。
「なんで僕の名を?」普通に尋ねた。
「もちろん存じてますわ。だって青き月から来た勇者様ですから……」
「青き月?勇者?」
何言ってんだ。この美人は…… 僕は急に混乱してきた。訳の分かない言葉が
飛び出す。ここは現実の世界なのか?夢で出てきたアニタの言葉を思い出す。
「異世界を救うのよ。」
アニタはそう言った。ここが異世界?救うって勇者ってこと?それが僕?
本当なら昼まで寝て、また掲示板に貼り付いて、ぼーっとする予定だった
のに、何が起こってるんだ? よく小説とかで見る異世界召喚って奴なのか。
にわかに受け入れることができなかった。
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