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色素の薄い茶色の瞳に、濡れて束になった前髪がかかっている。
眉を申し訳なさそうに下げて、腰を少し屈めてバスの通路に立っている青年は、たぶんわたしと同じで20代半ばくらい。
それはともかく――。
この人、この雨の中、傘もささずにバス停までやって来たの?
「あ、はい……」
最初から二人掛けの椅子の窓際に座っていたわたしは、反射的に体を更に奥へと寄せながら、青年の頭をまじまじと見た。
「ああ、大丈夫。大丈夫です。バス停近くの祖父の家まで自転車で来たんですけど、途中で合羽のフードが脱げてしまって。ちょっと頭は濡れたけど、服は濡れてないですよ」
わたしの視線を、自分の服が濡れることを心配したものだと勘違いしたらしく、青年が慌てて言い募る。
別に、服の心配をしたわけじゃないんだけど。
視線を下ろすと、確かに青年が着ているワイシャツは濡れていなかった。
「どうも、すみません」
わたしが納得したと判断したのか、青年はぺこりと頭を下げると、椅子の通路ぎりぎりのところへ、そっと腰を下ろした。
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