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▽▼▽
私には、二人の兄がいる。
片方は、私に優しくてカッコいい私が大好きなお兄ちゃん。
もう一人は、淡々としていて、まるで機械みたいな兄。
でも、私は知っている。
お兄ちゃんが兄の事をまるで居ないかのように無視している事も、その度に哀しそうに顔を歪める兄の姿も。
正直言ってしまうと、私もお兄ちゃんも兄の事が怖いのだ。
何を考えているかわからない、
それでいて、全てを見透かしているようなそんな瞳が。
私は、お兄ちゃんは、その瞳が恐ろしかった。
だからなのだろうか、私はあの人に面と向かって【お兄ちゃん】と呼んだ記憶が無い。
最後にあの人と話した時の記憶すらあやふやで、
よくよく思い返して見れば、私は、
あの人の笑った顔を見た事が、一度たりとも無いのだ。
何時も見ているあの人の笑顔は、苦しそうに、哀しそうに、唇を歪め、何かを我慢するかのような、そんなものだ。
今日だって、私はお兄ちゃんに映画のチケットを貰っているのに、あの人は、兄は、貰っていなかった。
私だけだったのだ、貰ったのは。
チケットを貰ったことにはしゃいでいて、嬉しかったあの時、私の横を足早に兄が歩いていった。
すぐに、外に行ってしまったけれど、私は気付いてしまった。
母が、父が、恨めしそうに、兄を見ていたことを。
兄は、怖くないんだろうか。
寂しくないのだろうか。
父にも母にも見放され、嫌われ、怖がられて。
私達にも、ずっとずっと無視されて。
《この状況を作り出したのは、私達だって言うのに》
《そんな事を思ってしまう自分がいるのだ》
《自分が如何に弱いかという事を顕著に知った日》
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