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また、下から聞こえてくる。
幸せそうな家族の会話。
でも、やっぱりそこに僕はいない。
「……………」
ああ、やっと止まりかけた涙がまた出ちゃったや。
こんな泣き虫だと、お兄ちゃんに嫌われちゃうな…なんて。
目から流れ出る液体を無視して、僕は毛布にくるまった。
幸せそうな家族の会話が聞こえ無いように、耳を塞ぎながら。
遮光カーテンの隙間から、明るい朝の光が差し込んで来る。
僅かに明るくなる部屋で、僕はムクリと身体を起こした。
きっと、泣きすぎて目は腫れているんだろう。
こんな姿で、お兄ちゃんには会いたくない。
そう思って、クローゼットから、黒色のパーカーと帽子を引っ張り出す。
服を着替え終わったその時、目の端に鏡に映った自分が見えた。
家族の誰にも似ていない髪色、似ていない瞳。
一体、誰に似たんだろうね。
自重じみた笑みを浮かべ、自分の姿を覆い隠す様に、深く深く帽子を身に付けた。
階段を素早く降り、リビングを通って玄関へと向かおうとする。
「ねェ、お母さんっ!!あのね、お兄ちゃんがね、私に映画のチケットくれたの!!」
「へぇ、そうなの!!良かったじゃない!」
「うん!!みんなで、一緒に行こうね!!」
その言葉に、足が思わず止まる。
何が、みんなだ。
そこに、僕は含まれていないくせに。
ふつふつと湧き上がる黒い感情。
ああ、もう、すべて無視してしまおう。
こちらに向けられた、憎悪と怒りの視線も。
足早に玄関へと向かい、靴を履き家を出る。
ああ、どこに行こうか。
行く宛なんて、無いんだけど。
「………ここにも、お兄ちゃん、ばっかり」
街のあらゆるところにはられたポスター。
そこには、かっこよくキメたお兄ちゃんが映っていた。
そう言えば、歌手としても活動を始めたとかなんだとか…そんな事を言っていたような気がする。
その笑顔を、僕にも向けてくれたらなって。
そう思ってしまうのは、【欲張り】なのだろうか。
《愛情を貰えた妹と、貰えなかった弟》
《ドロドロと湧き出てくるこの黒い感情は、無視してしまおうか》
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