第一話 【ねェ、お兄ちゃん】

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▼▽▼ また、下から聞こえてくる。 幸せそうな家族の会話。 でも、やっぱりそこに僕はいない。 「……………」 ああ、やっと止まりかけた涙がまた出ちゃったや。 こんな泣き虫だと、お兄ちゃんに嫌われちゃうな…なんて。 目から流れ出る液体を無視して、僕は毛布にくるまった。 幸せそうな家族の会話が聞こえ無いように、耳を塞ぎながら。 遮光カーテンの隙間から、明るい朝の光が差し込んで来る。 僅かに明るくなる部屋で、僕はムクリと身体を起こした。 きっと、泣きすぎて目は腫れているんだろう。 こんな姿で、お兄ちゃんには会いたくない。 そう思って、クローゼットから、黒色のパーカーと帽子を引っ張り出す。 服を着替え終わったその時、目の端に鏡に映った自分が見えた。 家族の誰にも似ていない髪色、似ていない瞳。 一体、誰に似たんだろうね。 自重じみた笑みを浮かべ、自分の姿を覆い隠す様に、深く深く帽子を身に付けた。 階段を素早く降り、リビングを通って玄関へと向かおうとする。 「ねェ、お母さんっ!!あのね、お兄ちゃんがね、私に映画のチケットくれたの!!」 「へぇ、そうなの!!良かったじゃない!」 「うん!!みんなで、一緒に行こうね!!」 その言葉に、足が思わず止まる。 何が、みんなだ。 そこに、僕は含まれていないくせに。 ふつふつと湧き上がる黒い感情。 ああ、もう、すべて無視してしまおう。 こちらに向けられた、憎悪と怒りの視線も。 足早に玄関へと向かい、靴を履き家を出る。 ああ、どこに行こうか。 行く宛なんて、無いんだけど。 「………ここにも、お兄ちゃん、ばっかり」 街のあらゆるところにはられたポスター。 そこには、かっこよくキメたお兄ちゃんが映っていた。 そう言えば、歌手としても活動を始めたとかなんだとか…そんな事を言っていたような気がする。 その笑顔を、僕にも向けてくれたらなって。 そう思ってしまうのは、【欲張り】なのだろうか。 《愛情を貰えた妹と、貰えなかった弟》 《ドロドロと湧き出てくるこの黒い感情は、無視してしまおうか》
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