虹と水たまり

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帰りにはもう雨はやんでいた。こんなふうに降ったりやんだりする天気が夏鈴は嫌いだった。降るなら降るで思いっきり降ってほしい。はっきりしない態度が一番嫌いだ。 今日は部活がないのでもう家に帰れる。帰ってもすることはあまりないが。部活をしていた方が楽しい。 西条は部活があるようで、クラスメイトと大声で話しながら教室を出ていった。教室を出るまで、彼は一度も夏鈴を見なかった。その横顔は決して夏鈴には向けられない、男の西条。むしゃくしゃした。 地面を蹴とばしながら歩いた。どうしてこんなにいらいらするんだろう。黒く濡れたアスファルトはどうしてもあいつの瞳を連想させて、余計にいらいらした。 信号が夏鈴の行く手を阻むように赤になった。夏鈴ははしたなく舌打ちをして、横にある歩道橋を登った。 青空が落ちていた。 違う。何の変哲もないただの水たまりだ。それでも、青空をいっぱいに映し込んだそれは、まるで宝石箱のような美しさで、青空の欠片が落ちてきたように見えた。 嫌な雨を降らせた雲はなくなっていた。きらきらと青を反射する水たまりは夏鈴の瞳を映して揺れた。濡れた歩道橋の欄干がきらめいて、心もすうっと晴れたような気がした。 ああ、西条に似ている。 何気ない道端に潜んでいて、精一杯の輝きで夏鈴の足を止める。そんな存在。 西条に会いたい。 どうしようもなく強い思いが、唐突に湧き上がった。それは戸惑うほど強く夏鈴の中に居座った。今すぐ西条に会いたい。会って、この青空を一緒に見てほしい。水たまりは、空は、西条に似ていると言ったら、彼は驚くだろうか。それとも笑うだろうか。 『恋を自覚するのって――』 よみがえる吐息混じりの声に、夏鈴は悟った。 ああ、これは。
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