0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そこ、お喋りしない。ちゃんと授業を聞け」
「ちゃんと聞いてますよう」
嘯いた西条に、先生はにやっと笑って言った。
「じゃあ西条、問二を黒板に解いてみろ。ついでに雨宮、お前は三をやれ」
ちっと舌打ちが横から聞こえる。舌打ちをしたいのは自分の方だ。西条のせいで夏鈴までとばっちりを食らった。
ただ、問題は問二が一番難しいものだった。なんとか問三を解けた夏鈴は先に自席に戻り、悪戦苦闘している西条を見ていた。それでかなり胸がすっとした。
ひとしきり絞られた西条はしばらく静かに授業を受けていた。夏鈴は眠くなってきた。ぶんぶんと虫の羽音のような先生の声。思考が沈んでいく。
「なあ、雨宮」
心地よい眠りに落ちようとしていた夏鈴を、西条の囁くような声が引き上げた。
「なに」
先生に怒られないようにだろう。小さな声で、必要以上に机を近づけて。夏鈴の心臓はその距離に音を立てて動いた。
「恋を自覚するのって、どういうときだと思う?」
最初のコメントを投稿しよう!