虹と水たまり

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虹と水たまり

「雨宮、見ろよ。虹」 「ん?」 隣の席に座る西条が窓の外を指す。 「あ、ほんとだ、綺麗」 今日は天気がずっとぐずついている。湿度も高く淀んだ教室の空気を、その光でもって洗い流すかのように虹はそこにあった。 授業はちょうど五時間目、昼食直後で一番眠くなるとき。おまけに数学。極めつけに夏鈴の一番嫌いな三角比の範囲ときた。やってられるか。それは西条も同じのようで、欠伸をしながら頬杖をついている。 「虹ってさあ……」 西条がぽつんと言った。 「雨宮みたいだよな」 「は?」 思いがけない西条の言葉に、夏鈴はなんと返していいかわからず戸惑った。 「何が私みたいなの?」 「なんかさ、」 西条は何かを言いかけた半開きの口のまま止まった。そのまま閉じてしまう。 「やっぱ内緒。教えてやんね」 「は?ケチ」 西条は楽しそうに笑った。夏鈴はその笑い声が胸に染みていくのを感じた。
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