第一章:透明な水面

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第一章:透明な水面

 「あと一駅、だよな」    これは、旅行というより、家出という方が近いかもしれない。    夏休み前の大会で一回戦負けしてしまったサッカー部三年生は、ある選択に迫られる。それは、「これで引退する」か「秋の大会まで残る」かの二つだった。  普通の運動部は、夏の大会で引退するかしないかを迫られるのだが、サッカーに関しては秋の大会まで残ることが可能であり、――大概は秋まで残るものだった。  だから、今回もそのはずだった。  彼の通う中学校のサッカー部三年生はみんな秋まで残るものだとされていた。“選択”なんて言い方をされていて、殆ど暗黙の了解であり、強制なのだ。  しかし彼・定男は、みんなが秋まで残る中、一人だけ辞めることを決意した。   ――キャプテンなのに。    そんな言葉が今でも、彼の耳に残っていた。そして、それは今でも耳元で囁かれているようで、鮮明に聞こえていた。  彼のその決断を聞いたチームメイトは、不思議に思う者もいれば、行き場のない感情を怒りに変える者もいた。     
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