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「ねえ、翼。」
声をかける。
反応が全く無いので、肩を叩いて彼の視界に入り込む。
「おーい!」
それでも、無視する。流石に苛立ってきて、手首を握って引っ張った。
「聴いてる!?」
彼ははっとして、私の方を向いた。でも、その目は私を見ていなかった。
「……凛?」
名前を呼ばれたので、当然の様に返した。
「やっと聞こえた?」
「……。」
彼はまた、前を向く。どうして?不思議だった。
だって、私はここに居るから。
ここに…いるのに……。
「ねえ…翼……。」
その声に、彼は応えない。私は、笑う。
「…傷、大丈夫?」
彼は、ふと、自分の腕を見た。小さな擦り傷。
「…大丈夫みたいだね。……良かった。」
彼は、振り向いた。
「生きてて。」
彼は、私を真っ直ぐに見つめた。
「凛…。」
私は、ここに居た。彼は、私を見ていた。私と、目が合っていた。
「……凛…」
「…。」
私は、わらってみせた。彼は、
ぽろぽろと、透明な、澄んだ涙を、静かに流した。
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