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「ねぇ! やしろっち! 次はいよいよ地区大会決勝だね」
「ああ! 必ず次もホームラン打って見せるからな」
「うん、豪快なホームラン期待してるね」
間違いない。俺が中学時代に対戦したことのある強打の捕手。
今はプロ注目の八重島勇人(やえじまゆうと)。
甘いマスクに抜群の運動神経。さらには巧みなリードとパンチ力のあるバッティングで俺も何度も苦しめられた。
しかし対戦成績は俺が勝っている。あの時はいつかバッテリーを組みたいと話していたが。
今となっては届かない雲の上の存在になってしまった。
野球が出来なくなったばかりではない。普段の生活もゴミと化してしまったからな。
俺はそんなことを思いながら立ち去ろうとした時だった。
「あ……」
あいつボール落としていきやがった。
ポケットにしまっていたのだろう。
汚くなった土だらけのボールを俺は拾う。久しぶりに持った白球に俺の心が躍る。
いや、何を考えているんだ俺。
もう俺は野球が出来ないんだ。呼びかけようとしたが声が出ない。
投げようと思っても肩がその度に痛む。
八方塞がりの状況に俺はどうしようかと考える。
「たく、しゃあねえな!」
だったら走るしかないな。俺はその場から駆け出し八重島を追いかける。
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