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心残りはある。もう一度だけ、全力で野球をしたかった。
白球を追いかけて、投げて、打ちたかった。
俺は瞼を閉じて迫りくるトラックの全てを受けた。
押しつぶされる感覚があったがそれは一瞬だけ。
悲鳴と叫び声が聞こえたがそれも気にしない。
さようなら。俺の虚しい人生。そして野球……。
最後に涙が出たのは忘れもしなかった。
――ん?
「昴(すばる)! 遅刻するわよ! 今日も野球の練習があるんでしょう!」
あれ? 何が起こったんだ? 目の前には起こしてくれる母親の姿があった。
しかし俺の知っている母親ではない。俺の母親はもう少し老けててこんなに美人ではない。
それに肩が異様に軽い。違和感が半端ではない。
……あの事故から助かったのか。いやそんなはずはない。
確実に俺は死んだ。助かる保証なんて何処にもない。
あの事故から助かったとなると奇跡だぞ。
それに昴って。俺の名前は透だ。
母親は慌てて一階に降りていく。朝から騒々しいと思いながら俺は鏡を見る。
しかし俺は鏡で自分の顔を見た時。驚きのあまり大声を出してしまった。
「な、なんじゃこりゃ!」
「うるさいわよ! はやく降りてきて朝食を食べなさい!」
「……はい」
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