チューン

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学生だったある日、家に帰ると机の上に新品のラジカセが置かれてあった。 驚いて母に聞くと、成績が良かったご褒美だと言われた。 その日から、ラジオは私の生活の一部。 あの頃、私は臆病で、でもそれを認めたくなくて、友達と遊んだりして、青春はそれなりにしていたけれど、たったの4文字を言うことは出来なかった。 「好きです」 時は流れて、あのラジカセは嫁入りと一緒にここにある。カセットは壊れてしまったけれど、ラジオはまだ聴ける。 「早くごはん食べちゃいなさい、遅刻するよ!」 あの頃、私はどんな私を想像していただろう。 本当はもっと優しいお母さんで、子供を叱ることなんかなくて、不安もなくて、幸せで。 現実は10年の結婚生活ですっかり家族になった夫と、家のローンに、育児にパートに追われる毎日に、笑顔でいる余裕なんかなくて。 あのラジカセを見るたびに、あのとき、言えば良かったって思うようになるなんて考えもしなかった。
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