第1章 カイがどこからかエラい物を拾ってきた

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第1章 カイがどこからかエラい物を拾ってきた

 カイは興奮していた。  頬を少し赤らめ目を見開いて、台所で缶ビールを飲んでいる迅のそばまで来てこう言った。 「お屋敷のお姉ちゃんちに行ってきたんだ。家に帰る途中たまたま会って、ドーナツ食べに来いって言うから。ほら、あの車椅子の人だよ。真っ赤な髪の毛の」  ひと息ついて冷蔵庫を開ける。カイは続けた。 「ドーナツ食べながら色んな話をしてくれたんだ。 本当にびっくりした。あのお姉ちゃんはさあ、家で彼氏と一緒にいたとき海からやってきた巨大な怪物に突然襲われたんだって。 信じられる? そりゃあビックリしたらしいよ…目がうるうるしてたし」  目の前を通るカイの横顔が視界に入った。  何となく顔を上げた迅は途端にギョッとした。  二度瞬きをしてもう一度見る。  今度はしげしげと、細心の注意を払って。  彼の額の内側に小さな黒い塊…。  頭骨の内側の硬膜組織が変容したような瘤が生じているのが見える。  紅蜘蛛…?  何ということだ。カイはどこからかエライ物を拾ってきたようだ。 「それで海に逃げるとき離ればなれにならないように、足と足を一緒にくくりつけたんだって。 でも気がついたときには、縄がほどけていて、彼氏はいなくて、それに怪物が自分の身体半分を持っていっちゃったから、歩けなくなったんだって」  パックの牛乳を取り出して迅の所まで持って来る。  迅はカイの額から目を離すことが出来ずにいた。しかし表面上は平静を装う。    いつものようにパックの角を掴んで引き開けてやる。カイは小さな声で礼を言い、自分でそれをコップに注いだ。  話は続く。 「お姉ちゃんは僕に言うんだ…カイくんがあの怪物をやっつけて私の彼氏と残り半分の身体を取り戻してくれない?」  一気に牛乳を飲むとコップを置いた。 「それからお姉ちゃんは長い間じっとテレビを見てた。テレビには海が映ってて、お姉ちゃんの目はその暗い海の色と同じだった。 いなくなった彼氏のことを考えてたのかな」  迅は最後の一口でゴクリとビールを飲みほした。カイが彼を見上げる。 「お姉ちゃんがね、あの怪物はまたやって来るんだよって。 だから見張ってなくちゃダメだって。ねえ、だったら僕たちも逃げた方がいいんじゃない?」
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