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その頃カシワギは、北署最上階のカフェスペースにいた。
定位置である奥の窓際席に座り、ぼんやりと外を眺めてはため息をつく。
「ここだったか、カシワギ」
ふいに呼びかけられて振り向くと、歩み寄る三つ揃いのスーツ姿の男が白い歯を覗かせて笑った。
すらりとした体躯に日に焼けた肌、整った顔はいい男の部類だ――カシワギははあと息を吐いてテーブルに突っ伏し、
「キサヌキ先輩マジック、全っ然効かない……」
「そりゃ重症だな」
神妙な顔のキサヌキはカシワギの隣に座り、
「ナガツカか俺か、って目をきらっきらさせてたお前はどこに――あ」
赤褐色の前髪の隙間から、大きく見開かれた目が殺意を帯びて見つめてくるのに気づき、
「……ナガツカのことだよな、お前が滅入ってんの」
「……わかってるなら、いちいち確認しないでもらえます?」
キサヌキの様子から察すると、何かしらよいことがあったように見えたが。
今のカシワギはほとんどの事柄に無関心であった。
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