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「駄目ね。……今回の同期は諦めましょ、後で考える」
薄暗い部屋に、深いため息まじりの声。
「今度はPTラインオフで始めるわ。準備いい?」
「はい、チーフ」
「じゃ、オペ895の5、五度目のアタック開始。――そろそろ頼むわよ」
目前のカプセルに向かって小さくつぶやいたカオルは眼鏡をかけ直し、モニターを注視する。
起動した装置類が放つ、ブン、という低音の波動が体に伝わる。
「CpO2(血中酸素濃度)、93%で一定してます」
「78、105-82」
「圧がちょっと低いけど、まあ許容範囲か」
「――チーフ」
オサカベが緊張の面持ちでカオルを呼ぶ。
「脳波に反応あり、覚醒します」
「やっと来たわね」
固唾を呑んで様子を見守る医務室の誰よりも、カオルの瞳は輝いていた。
……周りが何やら騒がしい、と思った。
聴覚をかすめて脳に降りそそぐ音のシャワーは普段通りだが、いつもと違って喧噪と人間の気配に満ち、忙しない――
ふと足下に水流を感じ、何事だとゆっくり目を開けた時。
ごぼり。
驚くほど近くで、大きく水泡が立つ音がした。
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