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雨が続くのは、梅雨入りしたせいらしい。
どんよりとした天気と、どんよりどころか暗く沈んだままの気分。
最悪、と、朱い唇が小さく動く。
「この週で君の能力値がさらに伸びたって、上もラボも感心しきりだ」
定例会に参加して戻ったリンの報告を聞いても、カシワギは表情ひとつ変えず、黙って窓の外を眺めていた。
「ケイゴの不在を埋める資格者はまだ見つからないそうだ。しばらくは二人で任務をこなすしかないね」
「……遠慮したいな」
「え」
リンの美しい顔にちらと目を遣って、
「できれば今は、何もしたくない」
「……ユイ」
「あれからあの人の情報何も入ってこないんだよ?」
自然と細くなる声。
「搬送された病院にはいないんだって、……今はどこにいるのかすら」
勤務中、こっそり抜け出して向かった病院にナガツカはいなかった。
さらに高度な治療ができる場所へと移されたそうだが、スタッフは誰も行き先を教えてくれなかったのだ。
一様の頑なな対応に、カシワギは殺意に似た感情すら覚えた。
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