WISH LIST

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 小谷野は崇史の後頭部にそっと額をくっつけてくる。後ろからギュッてしてもらう時に耳の後ろに唇が触れるのが好きだから、あんまり急に伸びるのも嫌だな、なんて思う。話す言葉と息の湿度や温度が混ざり合って耳に入り込んでくるような、その感覚が好き。  崇史が鍋の様子を見守っている間に、小谷野がざるやドンブリを用意する様を見て、なんだか同棲しているようで少し機嫌が良くなった。この部屋へ自由に出入りすることが許されたら、茶碗も箸もマグカップも自分用のものを置きたい、なんて考える。  今度は向かい合わせではなく、隣同士に座る。こっちの方がテレビよく見えるからなんていうのは言い訳で、数十センチでも近くに寄りたい。 「明日の朝は餅もあるよ。雑煮とおしるこ、どっちがいい?」 「えー、迷う……」 「磯辺焼きもあるよ」 「ちょっと待って、選択肢を増やさないで」 「まあ、ゆっくり決めなさい」  崇史の頭を撫でる手は優しくてあたたかい。これが大人の手なんだな、と触れられる度に思う。この手とは違う、少し長く生きてきて多く物を知っている手。自分はこんな手を持つ大人になれるだろうか。  みんな今頃どうしてんのかな。崇史がスマホを見ながら蕎麦をすすっていると、小谷野に怒られた。 「食べてからにしな。行儀悪いだろ」 「一緒にいる時くらい、先生みたいなこと言わないで欲しい……」     
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