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口に残るつぶあんの甘さを梅昆布茶で流しながら。コタツの中で足が触れ合って、目が合って。彼から顔を背けている間も、視線を感じている。濡れた視線が肌の上を舐めていく、その感触のせいで吐く息の温度が上がる。特別な時間の甘さを味わっている。
時間が流れる速度に逆らうように、崇史はわざとゆっくり靴を履いた。玄関先でぐずぐずしている姿を見守る小谷野を横目で見ながら、帰りたくないなあ、と溜め息混じりに呟いた。
「ちゃんと帰んなきゃ駄目だよ。親御さんが心配してるだろうから」
「僕一人くらいいなくても、どうせ気付かないよ。家にいるとうるさくて嫌だ。ただでさえ家族多いのに、姉ちゃんたちが帰ってきてるし。本当にうるさい。とにかく家に居たくない。未だに小さい子供と同じ扱いだし……」
だから、コウくんだけには子供扱いされたくないんだ。その言葉を呑み込んでしまう。こんな愚痴を吐いている時点で、自分は充分に子供で、それを覆すことが出来ない。
「送っていけなくて悪いね」
「……いいよ、別に。誰かに見られるかもしれないから」
小谷野は崇史の頭を撫でると、耳の後ろと襟足に触れながら、軽くキスをした。
くすぐったい? と問われて崇史が頷くと。
「くすぐられてる時にね、ちょっといやらしい顔してるよ」
吐息交じりの声が、耳の奥をくすぐる。熱い。たぶん今、凄くいやらしい顔をしているんだ。背中に、首に、じわりと汗が滲む。
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