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黒板の板書や学級日誌やテストの採点で何度も目にしているはずなのに。自分の為だけに書かれた字。年賀状に書かれた手書きの文字はいつもと違って見えて、何度も指でその上を撫でる。
小谷野に触れられた部分を、自分の指で触れてみても何も感じない。だけどあの指の感触は皮膚の下で記憶している。目で触れられるだけで熱くなって、アイスクリームが溶けるよりも速く崩れていく。あの感覚を、今すぐにでも欲しい。
早く大人になりたい。自分ばっかり子供で苛々するのはもう嫌だ。夜遅く帰ってきても朝帰りしても怒られないような大人に、早くなりたい。こんな家出てコウくんと一緒に暮らしたいって書いたら、きっとまた怒るんだろうな。先生みたいに。
散々悩んだ挙句、年賀ハガキには「僕も楽しみにしています」とだけ書いた。これだけではあまりにも寂しすぎるので、自分の願い事でも書いたほうが良いのだろうかと思い巡らせる。
次に部屋に泊まれるのは学校が春休みになってから。その前に入試休み、それから卒業式と崇史は暇を持て余す予定しかないのだが。小谷野が多忙で逢う時間が作れない。短いはずの三学期がとても長く感じる。
早く春が来ればいいのに。春が来たら、またコウくんより少し早く起きて寝顔を見るんだ。髭が伸びた顎をさすって、おはようなんて言うのを想像する。
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