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風呂から上がってきた小谷野は崇史の顔を覗き込む。そのまま目を閉じて寝たふりをしていると、そっと頬に触れてから行ってしまった。台所から水音がする。本当に寝ていると思ったのだろうか。起き上がるタイミングを失ったまま、本物の眠りに誘われかけたところで、ゴトリとコタツの上にマグカップを置いたらしい音がした。お茶淹れたけど、飲む? と柔らかい声で促され、のそりと起き上がる。
「今日はなんて言って出てきたの?」
「部活の友達と初詣」
「夜中に出歩くの、親が許してくれないと思った」
「顧問の先生も一緒だって言ったから」
「またそんなことを……」
言葉は呆れつつも、はにかみながら小谷野は崇史に優しい目を向ける。
「年明けたら俺仕事忙しくなるから、しばらく家に来るのは難しいかな。次は春休みになるかも」
「クリスマスも忘年会だって言って、何もなかったじゃん……」
「崇史もクラスのみんなとカラオケ行ったんだろ? それぞれ付き合いがあるんだからさ。俺のことだけじゃなくて、普段の生活を大事にしないと」
そうやって小谷野はいつも崇史をたしなめる。子供扱いはされたくないが、都合良くもう大人なんだからなんて、そう簡単には聞き入れられない。大人になったらそんなに簡単に衝動を理性で抑え込ませられる? 違うから、僕が今この部屋にいるんじゃないの? そうやって問い詰めたいけれど、面倒な子供だと思われたくなくて口を噤む。
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