WISH LIST

8/18
前へ
/18ページ
次へ
 彼の前では家族に見せる顔も友達に見せる顔も、全て脱ぎ捨てて裸体を晒す。彼もまた、自分にしか見せない顔で目線で、レンズを向ける。何も纏わない肌を熱く湿った舌で舐められるような、あの視線の感触。きっと誰も知らない。生徒としての崇史を、教師としての小谷野を知る人たちの誰も知らない。  見て、見られる。見せる。互いの欲望が溶けて混ざり合うような瞬間。この真実だけは揺るがない。  卒業したその先の、教師と教え子という壁が取り払われた、自由に愛せる時間が来ることを待ち遠しく思いながらも。窮屈な制服を脱ぎ捨ててしまうのがどこか寂しいように、もう少しだけ「先生」と呼んでいたい。コウくんと呼ぶのは、卒業したらいくらでも出来るから。子供扱いに拗ねながらも、思いの外この綱渡りのスリルを楽しんでいるのかもしれない。 「紅白始まったら、蕎麦茹でようか」  小谷野はコタツの温度を下げながら、少し脚を延ばす。これってわざと? それとも無意識? などと疑いつつも。崇史も素知らぬ顔をして足先で小谷野の脚をそっと撫でた。  存分に二人でいられる時間は暖かくて、テレビの中と同じくらい少し退屈で、だけど終わらないで欲しい。いくら逡巡したところで、意思とは関係なく刻々と大人になってしまうから。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加