WISH LIST

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 少し居眠りしてしまったらしい。崇史が目を覚ますと正面にいたはずの小谷野が見当たらず、振り返るとベッドの上で寝ていた。読みかけの本に指を挟んだまま、微かな寝息を立てている。起こさないようにそっと眼鏡を外して、コタツの上に置く。テレビのチャンネルを変えると、もう紅白は半分終わっていた。音を立てないように少しだけ息を止めて。崇史は自分のカメラを取り出し、小谷野の上に立て膝で跨った。先生だとか彼氏だとか。そういう役割分担を忘れてしまったような無防備な寝顔を、写真に撮る。シャッター音で起きませんように、と願いながら。  彼を起こさないようにこっそり台所へ行き、冷蔵庫の中の蕎麦を茹でる。スーパーの総菜の天ぷらをレンジで温めてると、小谷野がのそのそと起きてきた。 「起こしてくれれば良かったのに」 「もう出来るから、座って待ってて!」 「なんか危なっかしいなあ、大丈夫? ネギは俺が切ろうか?」 「これくらい出来るよ!」  家庭科で習ったから、これくらい。と、不慣れな手つきで薬味のネギを刻む。思ったよりも細く切れなくて焦る。もう見ないでいて欲しい。 「あれ、なんか背、伸びた? その内追い越されそうだな」     
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