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ダッカス氏の男泣きに、あやうくマイカの涙腺も決壊するところだった。ごきげんようと言うのはいったん諦め、大きく頭を下げると、待たせていた馬車に乗り込んだ。
この馬車で、マイカはこれから王都に向かう。
王都にある学園に入学し、寮に入るのだ。
これは、ダッカス氏の屋敷に来る前から決まっていたことだった。マイカの母は後妻で、父の領地も財産も、全て先妻との子である兄と姉のものになっている。学園に入ること自体はずっと以前から予定されていたことだったが、両親の死後も予定は無くならなかった。
「みなさん、ごきげんよう~」
馬車が走り出す。
声がした。
「マイカさん! 私! 私!」
ルンナの声だった。
髪を振り乱し、走って馬車を追って来る。
ルンナは、1か月前からダッカス氏の屋敷で働いている、住み込みのメイドだ。森で生き倒れになってるところを、偶然きのこ狩りに来ていたマイカとエミリオが見つけたのだった。あの時、濡れた土に横たわる彼女を見て、マイカは予感した。隣のエミリオを見て、予感が確信になった。その瞬間、マイカの初めての恋は終わった。想いを告げることもなく。
「マイカさーん! マイカさーん!」
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