マイカは秒殺する

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 エムジィの肩から降りて、マイカは言われた通りにした。  歩き出す。  後ろ歩きで。  一歩。  エムジィの後ろ姿。  ちょっと、斜め後ろから見た感じの。  二歩。  エムジィの前に、男が立つ。  背は低いががっしりした、毛皮のチョッキを着けた男だ。  三歩。  エムジィが言った。 「お前、百足兄弟の――アンディか?」  四歩。 「………」  答えず、男は両手で剣を構えた。  五歩。  がいん。  エムジィの右側で、重い金属音。  どさり。  何かが、その足元に落ちる。  六歩。  がいん。  どさっ。  今度は、左側で。  七歩。  毛皮の男が、両手の剣を構え直す。  八歩。  がいん。  どさっ。  がいん。  どさっ。  がいん。  どさっ。    九歩。  がいん。  どさっ。  がいん。  どさっ。  がいん。  どさっ。  がいん。  どさっ。  十歩。  マイカは、ショールの前を開けた。  露わになったのは、ベルトだ。  金属ともまた違う質感の、大きなバックルが付いている。  ベルトは、馬車でエムジィに与えられたものだった。  その時、彼女は言った。 『万が一の時には、ベルトのバックル(ここ)を触って、こう言って下さい――』  マイカはバックルを押さえて、言った。  震える声を、無理やり押し出して。     
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