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『デンドール語なら少し話せる。ここの代金をなしにしてくれるなら、必要なら代筆もしよう』
『……ほんと!?』
デンドール語で娘が承諾し、黄ばんだ便箋に伝言をメモする。難民となり、苦労して立ち上げた店はどうにかやっている。内戦が落ち着き、入国出来るようになれば迎えに行く。そんな内容だ。
腰に巻いた雑嚢に便箋を仕舞おうとして、鞄の底まで濡れて崩れた煙草と血塗れなことを思い出した。
「ここらに服と鞄と、それから娘の旅装が揃う店はあるかな」
「店を出て五分くらいで雑品店があるけど、高いし小さな子の服はないわ。ね、よかったら私の小さな頃に着てた服ならあるから娘さんにどう? 兵隊さんの服も洗ってあげる。もちろんそれは別料金」
しっかりしているおさげ娘の提案を承諾し、再び食事中のルーシーに目線を戻した。ルーシーはすっかり食べ終えていて、俺の目の前で冷めてしまったスープを指した。
「食べて」
「……ああ」
義務的に口に運び、硬いパンをスープでふやかしながら飲み下す。ルーシーはそれをじっと見つめ「おいしい?」と尋ねてきた。
「おいしい……たぶん」
「あなたも多分なのね」
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