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店の奥で話を聞いていたらしい女将が、綻びがあるがまだ着られるシャツを俺に渡してくれた。だが、服を洗う時間はもう無い。
「助かります。ですが時間がなくなったので、このシャツは買い取らせてください」
「そりゃいいけど、そのまま行くのかい?」
「行った先でゆっくり洗います」
血塗れのシャツに難色を示した女将もおさげ娘も、ルーシーの古着と合わせて三千リグを渡すとそれ以上は何も言わなかった。この国の人間は人死にも遺体も見慣れ過ぎて、麻痺している。ルーシーだけは女将の部屋で着替えさせて貰い、俺は上着だけを脱いで腰に巻き付け、シャツを着た。下着問題は全く解決していないが、後でどうにかしよう。
「ルーシー」
黒いワンピースとブーツを抱えたルーシーに、手を差し出した。ルーシーが躊躇い無く手を伸ばし、小さな細い指がおれの人差し指と中指をぎゅっと掴む。
「兵隊さん、母によろしく」
母娘に軽く会釈して、店を出る。少し、急がなくてはいけない。紹介された雑品店でルーシーの服とブーツを売り払い、子供用の下着はやはり無かったので俺のものとルーシーの背嚢と水筒を買った。
「水筒、あなたのは?」
「俺は必要ない」
どうせ、とその続きは口にはしなかった。そして重要なことを聞き忘れている事に思い当たる。
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