42人が本棚に入れています
本棚に追加
朝に来た道を引き返し、コーコント街道から外れた地点まで戻って再びコーコント街道を歩き始める。日は高く昇り、人通りも車の通行も多くなっている。こんな条件の時にも、追っ手は来る。なにせ、俺が通る道はただ一つだからだ。
「ルーシー、お前は、殺せば死ぬのか?」
雲一つない晴天のなか、雨除けのフードをかぶったままのルーシーは「死ぬわ」とはっきりと答えた。
「でも、私は殺されない。私を殺す方法は、ラッド、あなただけが知ってる」
雑踏の人いきれ、ルーシーの声だけが耳の奥に深く突き刺さった。
岩牢に反響する怨嗟の声に、心臓を握りしめられた。ケネシアの、血走った金色の瞳。魔女を殺す方法を。
「……俺は」
俺は、殺せるだろうか。いまもう一度ケネシアを、ルーシーを。
「だから、人間みたいな死に方を、私はしないわ」
俺の思考を遮るように、ルーシーがそう断言した。日差しは強く、白い肌は既に赤くなっている。一度痛めてしまった足は、丈夫なゴム底のブーツに履き替えても歩き方は不安定だ。
「なら、問題ない」
ルーシーの手を引き、彼女のまえに背を屈める。小さく軽い体が、はじめてそうした時よりも躊躇いながら覆い被さってきた。
「走るぞ」
最初のコメントを投稿しよう!