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昨日の死因は喉を切り裂かれた事によるもので、つまり失血死する量の血が俺の下着までをずぶ濡れにしたのだ。傷は塞がったが、血を消すサービスは付加されていない手落ちっぷり。乾いた血でごわつくので、出来れば下着くらいは換えたい。
「おかしいというか、おかしくない場所がないとしか言えんな。目立ちすぎる。あと、金の瞳は隠したほうがいい」
「なぜ?」
「おれは知らないが、お前は知ってるだろう。コーコントの瞳が金だったって伝承はどの国にも残ってる。今時魔女狩りにあいたくなきゃ何かで隠すんだな」
ふぅん、と気のない返事をしたルーシーがしばし瞼を閉じ、次に見上げてきたその色に俺は久しぶりに、ほんとうに久しぶりに驚いた。
「これでどう?」
「……いいんじゃねぇの」
ルーシーの瞳は、俺と全く同じ色になっていた。大陸にありふれたブルーアイだが、虹彩の色に鈍色が混じり、ひび割れガラスとからかわれた事もある俺の瞳と。
それから俺たちは、黙々と歩いた。
コーコント街道に沿って、各国の国境までは三百年ほどかけて鉄道が走り、街道は拡張され、裕福な人間は車で移動する。コーコント街道を徒歩で縦断するなんて愚かな目的を持っている者など、俺たち以外にはいやしない。
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