42人が本棚に入れています
本棚に追加
「そりゃそうだ。なぁ、寒いとか暑いって、わかるか?」
「知ってるけど……わからない」
耳元で、ルーシーの僅かに困惑した声。なるほど、と俺はようやく少しだけ理解した。知っているけどわからない。それはつまり、身体を持って経験したことがないということだ。
突然表れたケネシアに似ているルーシー。俺の死を見ても動じない、俺も彼女の存在を疑問にも感じない。
――ルーシーは、次代の魔女だ。
コーコント街道をただひたすら歩かされたこの八年。
――終わりが来るのだ。
そう気がつき、ルーシーの体温で温かな背中にぞわりと痺れが走った。それは歓喜にも似ていた。
「ルーシー、旅をするには相応しい格好ってのがある。それを揃えるには金が必要だ」
「そうね?」
「だが、俺が死んでいるあいだに俺の金を盗んだ奴がいる」
ルーシーは返事もせず、じっと目を閉じていた。俺が死んでいる間に金や荷物を盗まれるのはいつものことだが、ルーシーが同行するとなると話は別だ。肩口を振り返ると、ルーシーは音がしそうなほど長い睫毛を持ち上げて、その割れたガラスの瞳を得意げに俺にむけて微笑んだ。
「このまま北へ二リグ程。盗人の名前はクリム・バスタル」
「流石」
最初のコメントを投稿しよう!