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街道を、錆だらけのトラックが一台、国境にむけて近づいて来ていた。
「ルーシー、あれを止めてくれ。俺たちはあの車と待ち合わせをしていた」
ルーシーが静かにトラックに目線を向け、ひとつ、瞬いた。トラックはスピードを落とし、俺たちの目の前で錆びたブレーキのたてる異音をものともせず停車した。
『よう、遅かったな』
『何いってんだ、時間通りだぜ』
鼻の曲がった運転手がデンドール語で挨拶を寄越す。この男は“俺の仕事仲間で十年来の付き合い”で、赤らんだ顔に粗悪な酒で濁った白目の“仲介業者”だ。
『悪いな、娘も乗せて貰って』
『いいってことよ。まぁちいと教育に悪いかもしんねぇけどよう』
『お前が言うのかよ』
『ちげぇねぇ!』
トラックの荷台にまわり、扉を取り払った中には中身の飛び出たダニだらけのクッションと、その上に座る毒々しい化粧の女たち。八人のうち半数は目の下の隈と痩せ衰えた手首が目立った。
「邪魔するよ」
「なんだい、男がここに乗るなんて聞いてないよ」
「悪いな、コガシノまで同行させてくれ。こいつを俺の姉に預けにいくんだ」
ルーシーを抱えて乗せると、女たちは文句を言いながらも尻を少しだけ動かしてスペースを空けてくれた。
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