第十一章 暴走

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防御壁内の黒い霧が完全に消滅した。 それを確認した俺は、すぐにグラウンドへと目を向ける。 荒れ果てた、グラウンドの中央に俺が探す目的の人物は座り込んでいた。 「ジン!」 俺は、観客席から飛び出しグラウンドへと跳躍する。 俺からすればこの程度の距離は簡単に跳躍出来る。 「ちょ。この距離を飛ぶとか。どんな身体能力を・・・。」 エバンは、あっけに取られた顔をしながら、出しかけた右手を引っ込める。 俺は、自分の居た観客席から一番近いグラウンドの端に着地する。 「ジン!大丈夫か!?ジン!」 俺は、すぐにジンへと目を向けると、顔は上げていないが、ジンは右手を高く突き上げ、握り拳を作ると、親指だけを立てて見せた。 今は、それだけでも十分だった。 「ジーン!大丈夫なの?」 俺の横をフィアが駆け抜けていく。 ジンに駆け寄ったフィアは、何かを話しかけた後、口に両手をあてがい肩を震わせていた。それに気付いたのか、ジンの左手はフィアの頭をポンポンしていた。 ・・・。よくやったなジン。 『し・・・試合終了です!!!』 あ。一応続いてたんだ・・・。 ここで、第四試合が終了を告げる。 もちろん勝者はジン。トーナメント表に目をやると、ジンの名前が表示されていた。 そう言えば、大会初日は四試合までだったっけ。 この魔導大会は毎回規模が大きい為、時間も掛かることから何日かに分けて開催される。今日は規定の四試合を終了したため、第五試合から第八試合までは明日行われるのだ。 とりあえず、今日は帰ってゆっくり休まないとな。特にティルナは。 と、いつのまにか、ジンを中心にいつものメンバーが集まっていた。 俺はそこに合流すると、みんなとグラウンドを後にする。 クラスに戻ると、フィアとジンの周りには人だかりが出来ていた。 まぁ無理も無い。予選を突破した生徒がこのクラスに二名もいたんだから。 ジンもフィアも苦笑いと嬉しさからの笑みとが入り混じった表情で他の生徒と会話をしている。 俺は、そんな光景をほほえましく思った。 さて、そろそろ帰るか。っていうか、今日の俺。なんもしてない。 大魔導ってだけで専用席から観戦していただけで、特に何もしていない事を思い出して、自然と苦笑いが出てしまった。
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