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なんて素敵なシーズン。天の恵みありがとう。ぼくらの世界ありがとう。ケロケロ、ケロケロ!
「ヴモオオオオオオオン」
どこからともなく地を這うような重低音。雨蛙たちは顔を見合わせる。いま、変な声しなかった? いやいや、気のせいだろう。
ぼくらの季節は短いけれど、だからみんな待ち遠しい。だからみんな楽しいんだ。だからみんなで歌うんだ。ケロロン、ケロロン、ケロロロン!
「ヴモオオオオオオオン」
雨蛙たちが歌をやめると耳に入るのは雨音だけ。やっぱり気のせい? ステージの歌姫も首をかしげている。さあみんな、雨の季節ははじまったばかり。一緒に祝いましょう! ケロケロ、ケロロン、ケロロン!
「ヴモオオオオオオオン」
こわくなって池に飛び込む者もいる。祝いの席が呪いに成り代わってしまったかのよう。
みんなより高い位置に立っていた歌姫が気付いた。斜め下の紫陽花の葉。隠れるようにうずくまっている土色の大きな体。
「あなたは、だれ?」
恥ずかしがって余計固くなってしまうけれど、体が大きすぎて紫陽花の葉っぱからはみ出している。
「あれは、ウシガエルじゃないか?」
誰かが言った。
「本当だ、ウシガエルだ」
「あんなに大きなのはウシガエルしかいないよ」
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