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「僕たち雨蛙の声に一匹で対抗できるのはウシガエルしかいないよ」
「ああびっくりした。地響きはウシガエルだったんだね」
「どうしたんだいウシガエルくん。迷子になったのかい?」
ここまで騒がれては仕方がない。ウシガエルは申しわけなさそうに葉っぱをかき分けて雨蛙たちの前に出てきた。
「楽しそうな歌が聞こえてきて足が向いたんだ」
雨のしとしとが雨蛙たちの頭に降りかかります。
「おれも、みんなと一緒に歌いたくなって」
消え入りそうな声。
「だけど。おれはウシガエルだから紫陽花をいろどる歌は歌えない」
普通にしゃべる声ですら天の恵みとは程遠いものを召喚しているかのようだ。
「邪魔してごめん、おれ、遠くから聞いているから」
のっそりと向きを変え、紫陽花の葉っぱの向こうに消えていこうとするウシガエル。雨蛙たちは顔を見合わせるがいい答えが見つからない。それは歌姫も同じ思い。雨の季節を讃える歌を歌うのは雨蛙の大切な行事。この日のために自分たちは存在しているといってもいい。この合唱は雨蛙の誇りでもあるのだ。
「ウシガエルさん……」
歌姫が胸に手をあてた、そのとき。
「キャーッ!」
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