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どこからか悲鳴が。そして悲鳴は波のように迫ってくる。逃げ惑う雨蛙たちの背中を二つの目が見下ろしている。それは正しく。
「蛇だ!」
大蛇の腹の下でへし折れた紫陽花。池に潜るオタマちゃん。あちこち走り回る雨蛙をかき分けるように大蛇はまっすぐ歌姫に向かっていく。
「ククク、歌姫はお前か」
舌をチロチロ。
「祭りの歌姫を食らえば白蛇となりて天の使いとなる」
180度開く口から尖った牙。震え上がる歌姫。その隙にと水場へ逃げを決め込む雨蛙たち。
「たすけて……」
震えることしかできない歌姫。
「ヴモオオオオオオオン」
大地を切り裂くような咆哮がした。
「その子から離れろ!」
大きな体にたくさんの空気を取り込んだウシガエルの体躯は蛇と対峙してもひけをとらない。
「ウシガエルさん」
ウシガエルが戻ってきた。
「祭りも歌姫もおれが守る」
足取りも強く、歌姫と蛇の間に割って入る。蛇なんか逆に食ってやるとウシガエルの瞳が語っていた。
「ヴモオオオオオオオン」
歌姫を見捨てて池に飛び込んだ雨蛙たちも一斉に顔を水面から出した。
にらみ合う蛇とウシガエルの姿に静まり返る水面。
「邪魔だ! お前は不味そうなんだよ!」
「ヴモオオオオオオオン」
どちらも耳を塞ぎたくなる。雷雲を呼ぶ儀式のようだ。
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