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歌姫も紫陽花の葉から飛び降りて駆け寄った。
「ウシガエルさん、蛇は人間が連れ去りました。助かったのよ」
歌姫はウシガエルの手をとり、強く握りしめる。かすかに握り返す感触があった。
「ウシガエルさん、聞こえますか」
「美しい声だなぁ……」
かなり弱々しくなってしまったけれど、ウシガエルの瞳にはまだ光がある。
「だれか、薬草を!」
ウシガエルの腹から出血が止まらない。雨蛙たちは英雄のためにできることに奔走する。
「ドレスが汚れてしまった」
「なに言っているの! すぐ手当するから」
「歌ってくれないかな」
雨の季節ははじまったばかり。喜びの歌を。感謝の歌を。
「聞かせておくれよ」
「でも……」
震える歌姫の声。雨蛙のお医者さんが走り寄ってウシガエルを横にした。
「出血はひどいが、かえって毒が出て助かる可能性もある。適切な処置はする。あとは天の神様に祈るんだ」
助手たちがウシガエルを取り囲み、傷口に薬草を押し当てる。
「天の神様じゃなくて、地上の歌姫に、祈りたい、です」
「それだけ言えれば大丈夫。がんばれ!」
ウシガエルを励まし、お医者さんは立ち尽くす歌姫に力強く頷いた。
「歌ってあげなさい」
「で、でも」
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