弱者

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全身の感覚が消えた、そう思ったが、すぐにそれが復活した。ぼくは死んだはずなので、訳がわからなかった。 気づくと、目が開いて、視界が開けた。ぼくは家の台所で『ぼく』に馬乗りになっていた。そして、右手の包丁が『ぼく』を滅多刺しにしていた。 「クソ!この里香め、俺を(けな)しやがって!」と、無意識にぼくが『ぼく』に向かって怒鳴った。そして、また無意識に、包丁を丁寧に洗った。 そして、さっきの声から、ぼくは何故かは知らないが父に乗り移ってしまったことを悟った。 とりあえず、男の身体を体験しようと思ったら、今度は意識的に声が出た。ネットで得た知識を使い、この身体で遊び終わり、元に戻そう、そう思っただけで、手足の感覚が消えた。だが、視界はクリアなままだ。 「なんで俺が灯里に?」更に、ぼくが父を乗っ取っているとき、父の精神は『ぼく』に乗り移っていたらしい。
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