弱者

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「はあ?何やってんの、アンタ」ママが見つめる先には、『ぼく』の死体があった。 あれから数日が経ち、音信不通になった『ぼく』を探してここに来たらしい。 「見た通りだ。俺が灯里を殺した。通報したいなら、勝手にどうぞ」 「分かった」そう言ってママは携帯電話片手に外へ出た。警察を呼ぶらしい。それから数分としない間に、ママは戻ってきた。 「さあこれでアンタは罪人だ。じゃあこれで、私は帰るわ」 「なあ、警察が来るまでに、最後の一回、いいだろ」父が、ママの手を強く握った。 「もうアンタとはシないって決めたから」それから、ぼくの感覚が全て消えた。 それからしばらくして、ヒールがコンクリートに当たる音とパトカーのサイレンが、ぼくの耳に飛び込んできた。目を開けるとまた、目線の高さが違った。ママが帰っている途中だった。 「…なんであの子を産んだんだろ」人気(ひとけ)が少なくなるとすぐ、ママが呟いた。 「新しい旦那との子どもだけで十分なのに、なんで中絶しなかったんだろ。でも、灯里も殺してくれてありがとうって思ってるかもな。家は居心地悪かっただろうし」たしかに家に帰るのはとても憂鬱だった。だが別に、死は望んでなかった。学校はとても楽しいし。 「いやあ、アイツに灯里を殺して欲しいことを暗にほのめかしといてよかったわ」その言葉が決め手だった。ぼくがママを一生乗っ取って、ママの精神を殺そうと。
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