1章 旅立ち

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15歳になったら、旅に出られる。 そんなことを信じて、あたしは14歳の春を迎えた。 「蓮華、お兄ちゃん起こしてきて」 「はーい」 台所で朝食を用意するお母さんに言われ、あたしは二階のお兄ちゃんの部屋に行く。 あたしのお兄ちゃんはひとつ年上。 15歳のお兄ちゃんは、今日旅立ちを迎える。 15歳、中学を卒業して、高校進学か旅かを選択できるようになったのは、今から50年前のこと。 高校へ行っても夢を見つけられず、やりたいこともわからないまま大学へ行き、ニートが増えた結果、国は15歳を迎えたら社会勉強として旅をする選択をできるようにした。 『社会教育法』と新たにできた法律は初めこそ、批判ばかりだった。 そんなんでニートが減るわけがない。むしろ余計、非労働者を増やしてしまうという意見が相次いだ。 最初の10年は周りの意見通り、ニートが増えた。 政府はそこから若者に投資することを検討。旅をする者に現金を給付すると同時に、二週間に一度は企業見学をしてレポートを書くことを義務化。 レポートは国と企業に提出。 すると企業が、人材を手にいれやすくなったと、今度は旅をしている若者をターゲットにし始め、スカウトするようになった。 スカウトされた若者は高校免除で自分で稼げるようになった。医者や弁護士のような資格のいるものは、大学の支援をするといった企業も出てきた。 資格のいるものは、支援をもらったと同時に高校へ編入し、大学へ進学できる流れも整えられた。
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