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時が経つのは早いものである。
そうやってこの家の門をくぐって早10年、私は未だにこの場所にいる。
この赤い首輪も、クロと言う名前で呼ばれる事も最初は戸惑ったが、今ではすっかり受け入れてしまった。
まぁ玄関にも私専用の出入り口があり自由に外を出歩けるし、食事の心配も無い。そこだけ考えたらここは天国だ。そこだけ考えればだが……
「クロみーつけた!」
やはり来たか……
「クロ~ただいま~今日は雨だからお外には遊びに行けないでしょ~? 久しぶりに私と遊ぼうよ~ね~え~」
彼女は私を抱き上げると私の顔に自らの頬を擦り付ける。
私をこの家に招いた彼女もすっかり大人になり、今はどこかに働きに出ているらしく帰りもやや遅い。
私はというと、毎晩街を散策するのが日課になってしまい、彼女とは真逆の時間を過ごしている。
花屋のあいつと知り合ったのも彼が夜の公園で主人と共に散歩していたからだ。おそらく今日もこの雨の中、レインコートから茶色の尻尾をバタつかせ街を闊歩していることだろう。
だが雨嫌いの私はそうはいかない。彼女もそれを理解しているようで、雨の日となるとここぞとばかり私に構おうとする。
「でも、クロはずーっと無口だね。出会ってからニャーって鳴いたところ見たことないよ。ねぇねぇもう長い付き合いなんだし、一回くらい聞かせてくれない?」
断る。他のやつらならいざ知らず、私は撫で声で媚び諂ったりしないのだ。
「ダメ~? まぁ良いや、いつか気が向いたら聞かせてね。じゃあ代わりに肉球を~ぷ~にぷに~」
彼女は雨の日だけ、私の前で10年前の少女に戻る。
嗚呼……雨は嫌いだ。
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