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憂鬱は雨の中
雨は嫌いだ。
額にポツポツと当たる涙雨も、背中を打ち抜くような弾雨も私は好きじゃない。
「雨の日も良いモノだよ? 君もたまには散歩でもしてみたら?」
花屋のあいつはそう言って店の花束に鼻を埋めていたが、私には君のように分厚いレインコートを着込んで歩き回るような体力は無いのだ。
窓際に座り屋根から雨どいに流れる水の音を聞くと、まだほんの青二才だった頃の記憶が蘇ってくる。若さだけで生きていこうとしていた頃、もう遠い昔のような……そう、あの日も雨だった。
その日は閉店間際の洋菓子店で、軒先テントの下に佇んでいた。
空を見上げると鬱蒼とした鼠色の雲が揺れる波間のように見えて、それに気を取られていると横殴りの雨が鼻先にへばりつく。
暫くするとテントの上部から雨水が音を立てて流れはじめ、私はたまらず奥に身を窄めた。
二十分もここで待てば雨脚が弱まると高を括っていた私の予想は大きく外れ、雨はより一層激しさを増していく。
託つと共に大きなため息をついていると店先に設置してある木製のベンチに目が止まる。
テントが雨粒を防ぐギリギリのところに設置してあるから少し湿っていそうだが、立ちっぱなしよりはマシだろうと思った。
だが見ればベンチは予想以上に水滴に侵食されていて、そのまま体を預けると何とも言えない不快感と、濡れたアスファルトの独特な匂いが私の体に脱力感を植え付けていく。
だからこの日も呟いた、雨なんて嫌いだと。
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