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どうせ、また薬を飲ませて私の記憶を消せばいい。私は安易にそう思うと、自分の棲家へ彼を運んだ。
民家から離れた人目につかない家に私は一人で暮らしていた。
「これでよし、怪我したときは、自分で治すこと学んでおいたほうがいいんじゃない?若僧さん」
「若僧じゃない、ルイスだ」
彼は拗ねたようにそう答えた。そんなルイスに殺意も感じず、不思議な感覚で一緒にいれる。
「あんた、今正気だろ?指名手配された人物が目の前にいる、絶好の制裁機会だと思うけど?」
そういうと、ルイスは視線を落とした。
「僕だって、むやみな暗殺はする気はない」
「でも、それがあんたの仕事だろ?」
「君があの、少年を助けたのも見ていた。そしたら、もしかしたら、それほど君が悪い人ではない気がしたし」
ふと、私もあることに気づいた。
この男には、私と目が合ったのに籠絡されない。普通の素の自分としてルイスと話していた。男性と普通にこうして話すのは物心ついてからは初めてだった。
「あんた、どうして?私と目が合っても何も感じないの?」
「どうしてって?どうなるの?」
ルイスはまるで無垢な少年のように、私の瞳を見つめ返す。そんな無機質な瞳に耐えきれなくて、そらしたのは私の方だった。
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