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「へったくそだなぁ」
振り向くと、男が立っていた。
たぶん、お秀よりも、若い。
せいぜい二十五、六というところだろうかと、お秀は思った。
「なにさ、馬鹿にして。誰よ、あんた。どうしてこんな所にいるのさ」
「貸してみな」
男は、お秀の矢継ぎ早の悪態には耳を貸さず、お秀の手から小石を取って、手のひらの上に転がすようにしたが、すぐに、ぽい、と捨ててしまった。
「あっ……」
「石選びも大事なんだぜ。ほら、こういう、ぺったらこいのがいいんだ」
「ぺったらこい?」
ぺったらこいって、何だっけ?
男は、ちょっとはにかんだように笑い、
「平べったい」
と、言い直した。
「見ていな」
男の手から飛び出した石は、まるで生き物のように水の上を跳ねた。
幾度水を切ったか分からない。途中までは数えていたけれど、数え切れなかった。
あたかも、小動物が水面を駆けていくように、薄靄に沈んでしかとは見えない対岸へと消えていった。
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