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「すごい」
「そうよ。すごいだろう? 俺の方がずっとさ」
男は、ちょっと子どもっぽい表情で、得意げに笑った。
「ほら。おめえも、やってみな」
「あたしには無理よ。さっきからやっているけれど、全然出来やしない」
「だからさ。こつがあるんだって。まず、石はこういう……」
「ぺったらこいのね」
笑いを含んで、お秀が言う。
「そう、そう。そうして、面がすべすべしているのがいい。そいつを、こんな塩梅式に持ってな――」
男は、ごく自然にお秀の手を取った。
不思議に、嫌な気はしなかった。
「こう構えて、手首を利かして石を回すように投げるんだ」
やってみねえ――と、言われて、その通りにしたつもりだったけれど、はじめはやはり、上手くいかなかった。
けれど、何度も繰り返しているうちに、トン、トントン――と、石は三段跳ねた。
「やった!」
「出来たじゃねえか。練習すれば、もっと沢山飛ばせるようになるぜ」
でも、お秀は思い出していた。
たった一度でも、これができるようになったなら――
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