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「ううん、ありがとうよ。これで、なんだかあたし、吹っ切れたみたい。……思い残すこと無く、あの世へ行けそうだ」
「え? えええええ?! 待ちな待ちな、早まっちゃいけねえよぅ。大体、今は盂蘭盆だぜ。地獄の閻魔様だって、骨休みをしようって時だ。止しねえ止しねえ、迷惑がられらあ」
「ふん、おかしなことを言う人ね。そんならどうせ暇なんだろう。丁度いいや。あたしの愚痴を、嫌って言うほど聞かせてやるのさ」
「愚痴なら、何も地獄の果てまで行くことはねえやな。俺が、今ここで、いくらでも聞いてやるよ」
「あんたみたいな若僧に言ったところで、始まりゃしないさ」
「……若僧かぁ」
男は、首の後ろに手をやって苦笑した。
「ああ、そういう仕草。なんだか無性に腹が立つ」
お秀は軽く舌打ちをした。
「だって、あの野郎――兼吉に似ているんだもの」
「兼吉?」
「あの人も、水切りが上手かったっけ」
「そうか……好きだったのかい? その男のことが」
途端にお秀の目から、涙が溢れた。
「でも、あたしが殺した。もう、取り返しは付かないのさ」
「……殺した?」
「どうだい。怖じ気づいたかい。男を殺した女と二人っきりだよ」
「いいや」
男は、穏やかに言った。
「訳を、話してみなよ」
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