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プロローグ 山小屋
「忘れられた旅路」という特集で、
W地方X岳麓付近にあった言われている
摩崖仏巡礼という遍路に似た風習の調査をしに行った時の事だ。
遍路と言えば四国八十八か所の巡礼が有名だ。
最近はバスで巡ることもできる。
政治家が禊に、
これ見よがしにマスコミを引き連れ回っていたこともあった。
禊に仏をめぐって歩くと言うのもおかしいが。
昔、遍路の中には「捨往来手形」を持たされ、
巡礼を始めた歩き遍路たちがいた。
手形に書いてあるのは、
この者が亡くなっても村には知らせなくてよい事
亡くなった土地の慣例に従い葬ってくれること。
今でも何通かの往来手形が現存している。
この往来手形を持ち、X岳山麓を巡礼した人々が居ると言うのだ。
痕跡が驚く程ない。
意気消沈して
巡礼者たちが休んだ小屋跡に作られたという
いわれがある山小屋に休んでまどろみ、
目を覚ますと、向かい側に何かいた。
明かりとりの窓から差し込む光で、ようやく人だと分かった。
白衣を着た、胡麻塩頭の老人がうずくまっている。
長い杖を体に立てかけ、
杖の上に置いている左手の人差し指から小指までが無い。
眼窩は落ちくぼみ、、頬がこけ、眠っているのか、
いや生きているのかも判然としない様子だった。
男が突然喋りはじめた。
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